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2026.11.1

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サイバー攻撃による情報流出の賠償と、サイバー保険で支払われる保険金

Written by

SEKI

はじめに:情報が流出すると、会社には何が起きるか

サイバー攻撃で顧客情報が流出すると、会社は「被害者への賠償」と「事故を収めるための費用」という2種類のお金を同時に負担することになります。サイバー保険は、この両方を保険金として支払う仕組みです。

流出が起きると、会社には次のような負担が一度に押し寄せます。

  • 情報を流出された本人や取引先からの損害賠償請求(慰謝料、弁護士費用、取引先の損害など)

  • 原因を突き止めるためのフォレンジック調査

  • 個人情報保護委員会への報告と、本人への通知(2022年の法改正で一定の事態は義務化)

  • お詫び状の送付、問い合わせ窓口(コールセンター)の設置、お詫びの品

  • 弁護士への相談、記者会見、再発防止策の策定

この記事では、特に「賠償」に関わる部分を中心に、サイバー保険から具体的にどのような保険金が出るのかを整理します。

サイバー保険の基本構造:3本の柱

サイバー保険の補償は「損害賠償」「事故対応費用」「利益損害」の3本柱でできています。日本損害保険協会も、サイバー事故では①事故対応費用、②損害賠償費用、③利益損害・営業継続費用の3つが発生し得ると説明しており、各社の商品はおおむねこの区分に沿っています(innovaTopia、日本損害保険協会)。

柱

誰に対するお金か

主な中身

情報流出との関係

① 損害賠償責任

被害者(顧客・取引先などの第三者)

法律上の損害賠償金、争訟費用など

流出の「賠償」そのもの。中心となる補償

② 事故対応費用

自社が支出した費用

原因調査、通知・お詫び、コールセンター、見舞金、弁護士相談、再発防止など

流出時に必ず発生し、金額も大きくなりやすい

③ 利益損害・営業継続費用

自社の売上減少など

システム停止中の喪失利益、臨時の営業継続費用

多くの商品でオプション。ランサムウェアで業務が止まった場合に効く

情報流出の「賠償」を考えるときは、①だけでなく②もセットで見ることが大切です。実際の流出事故では、裁判で払う賠償金より、通知・調査・お詫びにかかる費用のほうが先に、確実に発生するからです。

損害賠償責任の補償:被害者に支払うお金

情報流出で会社が「法律上の損害賠償責任」を負ったとき、サイバー保険は賠償金そのものと、争うためにかかった費用を保険金として支払います。補償の対象は自社の損害ではなく、第三者に与えた損害です。

支払われる保険金の種類

保険金の種類

中身

情報流出での具体例

損害賠償金

判決・和解などで被害者に支払う賠償金

流出された本人への慰謝料、判決で認められた弁護士費用、クレジットカード再発行など実費の損害

損害賠償金(取引先)

取引先・委託元に与えた損害の賠償

預かっていた取引先の顧客情報を流出させ、委託元から債務不履行で請求された賠償

争訟費用

訴訟・調停・和解・仲裁などに要した費用

自社側の弁護士報酬、訴訟費用。集団訴訟になるとここが膨らむ

権利保全行使費用

他人に損害賠償を請求できる権利を守るための費用

原因を作った委託先などへ求償するための手続き費用

協力費用

保険会社が代わりに交渉する場合に、会社が協力するためにかかった費用

保険会社の示談交渉に協力するための資料作成など

1人あたりの賠償額は「数千円〜数万円」、問題は人数と訴訟コスト

個人情報の流出では、実際の金銭被害は小さいことが多く、争点は主に慰謝料と弁護士費用になります。過去の裁判例では、1人あたりの認容額は次のとおりです。

事件

流出した情報

原告1人あたり賠償額(判決)

TBC(東京高裁 平成19年)

氏名・住所に加えエステのコース名など

35,000円(慰謝料3万円+弁護士費用5,000円)

宇治市住民基本台帳(最高裁 平成14年)

住民基本台帳の情報

15,000円(慰謝料1万円+弁護士費用5,000円)

Yahoo! BB(大阪高裁 平成19年)

氏名・住所など

6,000円(慰謝料5,000円+弁護士費用1,000円)

出典:BUSINESS LAWYERS「サイバー攻撃で情報漏えいが発生した際に負う法的責任とは」

金額を左右するのは、流出した情報の種類(病歴・信用情報などセンシティブな情報ほど高額)と、悪用による二次被害の有無です。1人あたりは小さくても、ベネッセ事件のように被害者の会が1万人規模で集団訴訟を起こすと、賠償金と争訟費用の合計は大きくなります。

賠償責任補償の注意点

  • 罰金・課徴金は対象外:行政から科される罰金・科料・課徴金・制裁金は、賠償金に含まれません。

  • 保険会社の同意が必要:被害者と示談する前に、保険会社の同意を得るのが原則です。勝手に約束した賠償額は、全額が支払われないことがあります。

  • 委託先経由の流出:預けた先で漏れた場合の扱いは、商品や約款の文言で異なります。加入前に確認が必要です。

事故対応費用の補償:流出を収めるためのお金

事故対応費用は、訴えられていなくても、流出が起きた時点から発生する費用を補償します。情報流出の現場では、この部分が最初に、しかも確実に必要になります。

費用の種類

中身

事故原因・被害範囲調査費用

フォレンジック調査など、どこから何件漏れたかを突き止める費用

被害拡大防止費用

ネットワークの遮断、緊急のアクセス制限など

通知・お詫び費用

お詫び状の作成・送付、メール通知、社告

コールセンター費用

問い合わせ窓口の設置・運営、臨時雇入れ、従業員の超過勤務手当

見舞金・見舞品購入費用

被害者へのお詫びの金券や品物(大手の例で個人1名1,000円、法人1社5万円まで)

クレジット情報モニタリング費用

カード情報などの不正使用を監視する費用

法律相談費用

弁護士への相談、個人情報保護委員会への報告対応

公的調査対応費用

監督官庁などの調査に対応する費用

広告宣伝・信頼回復費用

記者会見、謝罪広告、信頼回復のための広報

データ・システム復旧費用

消去・改ざんされたデータやシステムの復旧

再発防止費用

再発防止策の策定、コンサルティング

見舞金の上限はinnovaTopiaが国内大手の例として紹介している数字です。費用項目の名称・範囲・上限は商品ごとに異なります。

損保ジャパンは2026年2月の改定で「サイバー攻撃緊急初動費用」を設け、外部から指摘された場合だけでなく、自社で異常に気づいた段階の調査・遮断費用も対象にしたと説明しています(単独商品の説明。団体制度版の条件は個別に確認が必要です)。

ケーススタディ:顧客1万人分の情報が流出したら

この想定では、流出全体で約2,950万円の負担のうち、自己負担額を除いたほぼ全額がサイバー保険から支払われます。以下の金額はすべて説明用の仮定であり、実際の費用や保険金は事故の内容と契約条件で変わります。

想定:従業員30名の通販会社が不正アクセスを受け、顧客1万人分の氏名・住所・電話番号・メールアドレスが流出。契約は「賠償1億円・費用3,000万円・自己負担10万円」。

発生したこと

金額(仮定)

支払う補償

フォレンジック調査で流出範囲を特定

500万円

事故対応費用(調査費用)

1万人へお詫び状を郵送

150万円

事故対応費用(通知費用)

1か月間のコールセンター設置

300万円

事故対応費用(コールセンター費用)

1人1,000円の見舞金(金券)

1,000万円

事故対応費用(見舞金)

弁護士相談、個人情報保護委員会への報告対応

100万円

事故対応費用(法律相談費用)

再発防止策の策定

200万円

事故対応費用(再発防止費用)

200人が提訴、1人1.5万円で判決

300万円

損害賠償責任(損害賠償金)

会社側の弁護士費用など

400万円

損害賠償責任(争訟費用)

合計

2,950万円

自己負担10万円を除き保険金で対応

この例で分かるのは、裁判の賠償金(300万円)より、調査・通知・見舞金などの対応費用(2,250万円)のほうがはるかに大きいことです。「賠償責任保険に入っているから大丈夫」ではなく、事故対応費用の限度額が十分かを確認することが重要です。

参考までに、損保ジャパンが公開している保険料例では、売上高5億円の製造業で「賠償1億円・費用3,000万円・自己負担10万円」の年間保険料は67,000円です(セキュリティ対策を約半分実施している想定、innovaTopiaより)

補償されない主なケースと注意点

サイバー保険は流出の費用を広くカバーしますが、次のものは原則として保険金の対象外です(innovaTopiaが各社資料をもとに整理)。

対象外となるもの

内容

身代金

ランサムウェアの攻撃者に支払う金銭。日本損害保険協会も対象外と説明

罰金・課徴金

罰金・科料・過料・課徴金・制裁金など

戦争・国家関与の攻撃

戦争や、重要インフラ・安全保障に重大な影響を及ぼす国家関与の攻撃

故意・社内の犯罪

契約者の故意、役員・従業員の窃盗・横領など(損保ジャパンは使用人の犯罪をオプションで補償)

契約前の攻撃

加入前に始まっていた攻撃による事故(被害後に加入しても使えない)

インフラ停止

自社の管理下にない電気・通信などの停止による損害(商品により扱いが異なる)

事故のときに気をつけること

  • すぐに保険会社・代理店へ連絡する:連絡期限を設けている商品があり、遅れると補償される費用が限られることがあります。

  • 業者の手配は保険会社と相談してから:自社で勝手に手配した費用がどこまで出るかは契約次第です。多くの商品に専門事業者の紹介サービスが付いています。

  • 被害者との示談は保険会社の同意を得てから:先に約束した金額は、全額が支払われないことがあります。

中小企業が加入を検討するときのポイント

中小企業のサイバー保険加入率は8.8%にとどまります(日本損害保険協会の2025年調査、innovaTopiaより)。一方で、顧客情報を持つ会社であれば、規模に関係なく流出の賠償と対応費用は発生します。検討の際は次の点を確認してください。

  1. 事故対応費用の限度額:流出時に最も大きくなるのは調査・通知・見舞金です。顧客数×見舞金単価を目安に、費用の限度額が足りるかを確認します。

  2. 賠償の限度額:取引先の情報を預かる会社は、委託元からの請求額が大きくなり得るため、賠償の限度額を厚めにします。

  3. 利益損害をつけるか:ランサムウェアで業務が止まると売上が失われます。多くの商品でオプションです。

  4. 緊急時サポートの内容:24時間の受付窓口や専門事業者の紹介があるかは、最初の数時間の対応を左右します。

  5. 割引の活用:セキュリティ対策の実施状況に応じた割引や、商工会議所などの団体制度を使うと保険料を抑えられます。

まとめ

情報流出でサイバー保険から出る保険金は、被害者への「損害賠償金・争訟費用」と、流出を収めるための「事故対応費用」の2つが中心です。1人あたりの賠償額は小さくても、人数が多いと対応費用が膨らみます。補償の範囲と限度額は商品・契約によって異なるため、加入前に約款と代理店の説明で確認してください。

出典

本ページは保険商品の概要を説明したものです。詳しくは当社までお問い合わせください。