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サイバー攻撃による情報流出の賠償と、サイバー保険で支払われる保険金
Written by
SEKI
はじめに:情報が流出すると、会社には何が起きるか
サイバー攻撃で顧客情報が流出すると、会社は「被害者への賠償」と「事故を収めるための費用」という2種類のお金を同時に負担することになります。サイバー保険は、この両方を保険金として支払う仕組みです。
流出が起きると、会社には次のような負担が一度に押し寄せます。
情報を流出された本人や取引先からの損害賠償請求(慰謝料、弁護士費用、取引先の損害など)
原因を突き止めるためのフォレンジック調査
個人情報保護委員会への報告と、本人への通知(2022年の法改正で一定の事態は義務化)
お詫び状の送付、問い合わせ窓口(コールセンター)の設置、お詫びの品
弁護士への相談、記者会見、再発防止策の策定
この記事では、特に「賠償」に関わる部分を中心に、サイバー保険から具体的にどのような保険金が出るのかを整理します。
サイバー保険の基本構造:3本の柱
サイバー保険の補償は「損害賠償」「事故対応費用」「利益損害」の3本柱でできています。日本損害保険協会も、サイバー事故では①事故対応費用、②損害賠償費用、③利益損害・営業継続費用の3つが発生し得ると説明しており、各社の商品はおおむねこの区分に沿っています(innovaTopia、日本損害保険協会)。
柱 | 誰に対するお金か | 主な中身 | 情報流出との関係 |
|---|---|---|---|
① 損害賠償責任 | 被害者(顧客・取引先などの第三者) | 法律上の損害賠償金、争訟費用など | 流出の「賠償」そのもの。中心となる補償 |
② 事故対応費用 | 自社が支出した費用 | 原因調査、通知・お詫び、コールセンター、見舞金、弁護士相談、再発防止など | 流出時に必ず発生し、金額も大きくなりやすい |
③ 利益損害・営業継続費用 | 自社の売上減少など | システム停止中の喪失利益、臨時の営業継続費用 | 多くの商品でオプション。ランサムウェアで業務が止まった場合に効く |
情報流出の「賠償」を考えるときは、①だけでなく②もセットで見ることが大切です。実際の流出事故では、裁判で払う賠償金より、通知・調査・お詫びにかかる費用のほうが先に、確実に発生するからです。
損害賠償責任の補償:被害者に支払うお金
情報流出で会社が「法律上の損害賠償責任」を負ったとき、サイバー保険は賠償金そのものと、争うためにかかった費用を保険金として支払います。補償の対象は自社の損害ではなく、第三者に与えた損害です。
支払われる保険金の種類
保険金の種類 | 中身 | 情報流出での具体例 |
|---|---|---|
損害賠償金 | 判決・和解などで被害者に支払う賠償金 | 流出された本人への慰謝料、判決で認められた弁護士費用、クレジットカード再発行など実費の損害 |
損害賠償金(取引先) | 取引先・委託元に与えた損害の賠償 | 預かっていた取引先の顧客情報を流出させ、委託元から債務不履行で請求された賠償 |
争訟費用 | 訴訟・調停・和解・仲裁などに要した費用 | 自社側の弁護士報酬、訴訟費用。集団訴訟になるとここが膨らむ |
権利保全行使費用 | 他人に損害賠償を請求できる権利を守るための費用 | 原因を作った委託先などへ求償するための手続き費用 |
協力費用 | 保険会社が代わりに交渉する場合に、会社が協力するためにかかった費用 | 保険会社の示談交渉に協力するための資料作成など |
1人あたりの賠償額は「数千円〜数万円」、問題は人数と訴訟コスト
個人情報の流出では、実際の金銭被害は小さいことが多く、争点は主に慰謝料と弁護士費用になります。過去の裁判例では、1人あたりの認容額は次のとおりです。
事件 | 流出した情報 | 原告1人あたり賠償額(判決) |
|---|---|---|
TBC(東京高裁 平成19年) | 氏名・住所に加えエステのコース名など | 35,000円(慰謝料3万円+弁護士費用5,000円) |
宇治市住民基本台帳(最高裁 平成14年) | 住民基本台帳の情報 | 15,000円(慰謝料1万円+弁護士費用5,000円) |
Yahoo! BB(大阪高裁 平成19年) | 氏名・住所など | 6,000円(慰謝料5,000円+弁護士費用1,000円) |
出典:BUSINESS LAWYERS「サイバー攻撃で情報漏えいが発生した際に負う法的責任とは」
金額を左右するのは、流出した情報の種類(病歴・信用情報などセンシティブな情報ほど高額)と、悪用による二次被害の有無です。1人あたりは小さくても、ベネッセ事件のように被害者の会が1万人規模で集団訴訟を起こすと、賠償金と争訟費用の合計は大きくなります。
賠償責任補償の注意点
罰金・課徴金は対象外:行政から科される罰金・科料・課徴金・制裁金は、賠償金に含まれません。
保険会社の同意が必要:被害者と示談する前に、保険会社の同意を得るのが原則です。勝手に約束した賠償額は、全額が支払われないことがあります。
委託先経由の流出:預けた先で漏れた場合の扱いは、商品や約款の文言で異なります。加入前に確認が必要です。
事故対応費用の補償:流出を収めるためのお金
事故対応費用は、訴えられていなくても、流出が起きた時点から発生する費用を補償します。情報流出の現場では、この部分が最初に、しかも確実に必要になります。
費用の種類 | 中身 |
|---|---|
事故原因・被害範囲調査費用 | フォレンジック調査など、どこから何件漏れたかを突き止める費用 |
被害拡大防止費用 | ネットワークの遮断、緊急のアクセス制限など |
通知・お詫び費用 | お詫び状の作成・送付、メール通知、社告 |
コールセンター費用 | 問い合わせ窓口の設置・運営、臨時雇入れ、従業員の超過勤務手当 |
見舞金・見舞品購入費用 | 被害者へのお詫びの金券や品物(大手の例で個人1名1,000円、法人1社5万円まで) |
クレジット情報モニタリング費用 | カード情報などの不正使用を監視する費用 |
法律相談費用 | 弁護士への相談、個人情報保護委員会への報告対応 |
公的調査対応費用 | 監督官庁などの調査に対応する費用 |
広告宣伝・信頼回復費用 | 記者会見、謝罪広告、信頼回復のための広報 |
データ・システム復旧費用 | 消去・改ざんされたデータやシステムの復旧 |
再発防止費用 | 再発防止策の策定、コンサルティング |
見舞金の上限はinnovaTopiaが国内大手の例として紹介している数字です。費用項目の名称・範囲・上限は商品ごとに異なります。
損保ジャパンは2026年2月の改定で「サイバー攻撃緊急初動費用」を設け、外部から指摘された場合だけでなく、自社で異常に気づいた段階の調査・遮断費用も対象にしたと説明しています(単独商品の説明。団体制度版の条件は個別に確認が必要です)。
ケーススタディ:顧客1万人分の情報が流出したら
この想定では、流出全体で約2,950万円の負担のうち、自己負担額を除いたほぼ全額がサイバー保険から支払われます。以下の金額はすべて説明用の仮定であり、実際の費用や保険金は事故の内容と契約条件で変わります。
想定:従業員30名の通販会社が不正アクセスを受け、顧客1万人分の氏名・住所・電話番号・メールアドレスが流出。契約は「賠償1億円・費用3,000万円・自己負担10万円」。
発生したこと | 金額(仮定) | 支払う補償 |
|---|---|---|
フォレンジック調査で流出範囲を特定 | 500万円 | 事故対応費用(調査費用) |
1万人へお詫び状を郵送 | 150万円 | 事故対応費用(通知費用) |
1か月間のコールセンター設置 | 300万円 | 事故対応費用(コールセンター費用) |
1人1,000円の見舞金(金券) | 1,000万円 | 事故対応費用(見舞金) |
弁護士相談、個人情報保護委員会への報告対応 | 100万円 | 事故対応費用(法律相談費用) |
再発防止策の策定 | 200万円 | 事故対応費用(再発防止費用) |
200人が提訴、1人1.5万円で判決 | 300万円 | 損害賠償責任(損害賠償金) |
会社側の弁護士費用など | 400万円 | 損害賠償責任(争訟費用) |
合計 | 2,950万円 | 自己負担10万円を除き保険金で対応 |
この例で分かるのは、裁判の賠償金(300万円)より、調査・通知・見舞金などの対応費用(2,250万円)のほうがはるかに大きいことです。「賠償責任保険に入っているから大丈夫」ではなく、事故対応費用の限度額が十分かを確認することが重要です。
参考までに、損保ジャパンが公開している保険料例では、売上高5億円の製造業で「賠償1億円・費用3,000万円・自己負担10万円」の年間保険料は67,000円です(セキュリティ対策を約半分実施している想定、innovaTopiaより)

補償されない主なケースと注意点
サイバー保険は流出の費用を広くカバーしますが、次のものは原則として保険金の対象外です(innovaTopiaが各社資料をもとに整理)。
対象外となるもの | 内容 |
|---|---|
身代金 | ランサムウェアの攻撃者に支払う金銭。日本損害保険協会も対象外と説明 |
罰金・課徴金 | 罰金・科料・過料・課徴金・制裁金など |
戦争・国家関与の攻撃 | 戦争や、重要インフラ・安全保障に重大な影響を及ぼす国家関与の攻撃 |
故意・社内の犯罪 | 契約者の故意、役員・従業員の窃盗・横領など(損保ジャパンは使用人の犯罪をオプションで補償) |
契約前の攻撃 | 加入前に始まっていた攻撃による事故(被害後に加入しても使えない) |
インフラ停止 | 自社の管理下にない電気・通信などの停止による損害(商品により扱いが異なる) |
事故のときに気をつけること
すぐに保険会社・代理店へ連絡する:連絡期限を設けている商品があり、遅れると補償される費用が限られることがあります。
業者の手配は保険会社と相談してから:自社で勝手に手配した費用がどこまで出るかは契約次第です。多くの商品に専門事業者の紹介サービスが付いています。
被害者との示談は保険会社の同意を得てから:先に約束した金額は、全額が支払われないことがあります。
中小企業が加入を検討するときのポイント
中小企業のサイバー保険加入率は8.8%にとどまります(日本損害保険協会の2025年調査、innovaTopiaより)。一方で、顧客情報を持つ会社であれば、規模に関係なく流出の賠償と対応費用は発生します。検討の際は次の点を確認してください。
事故対応費用の限度額:流出時に最も大きくなるのは調査・通知・見舞金です。顧客数×見舞金単価を目安に、費用の限度額が足りるかを確認します。
賠償の限度額:取引先の情報を預かる会社は、委託元からの請求額が大きくなり得るため、賠償の限度額を厚めにします。
利益損害をつけるか:ランサムウェアで業務が止まると売上が失われます。多くの商品でオプションです。
緊急時サポートの内容:24時間の受付窓口や専門事業者の紹介があるかは、最初の数時間の対応を左右します。
割引の活用:セキュリティ対策の実施状況に応じた割引や、商工会議所などの団体制度を使うと保険料を抑えられます。
まとめ
情報流出でサイバー保険から出る保険金は、被害者への「損害賠償金・争訟費用」と、流出を収めるための「事故対応費用」の2つが中心です。1人あたりの賠償額は小さくても、人数が多いと対応費用が膨らみます。補償の範囲と限度額は商品・契約によって異なるため、加入前に約款と代理店の説明で確認してください。
出典
本ページは保険商品の概要を説明したものです。詳しくは当社までお問い合わせください。

